桃井和馬の視点 第3回「スイスの安全保障と、京都議定書」

今回は、スイスの安全保障について、少し紹介させてください。スイスは国連に2002年まで加入しませんでした。また現在もEUには所属していません。理由は1863年にできた赤十字国際委員会の中立を保つためでした。

スイスは国境を5ヵ国(フランス、ドイツ、オーストリア、イタリア、リヒテンシュタイン)と接しています。第二次世界大戦時、小豆島と同規模の国土を持つリヒテンシュタイン以外は、すべてドイツとイタリアの支配下となり、結果、枢軸国に囲まれた陸の孤島になってしまったのです。この恐怖の体験がスイスを「砦の国家」へと向かわせました。男子には徴兵制が課せられ、それぞれの家には銃器が配備された上に核シェルターの設置も義務化されたのです。

しかし武力による安全保障には限界があります。ソフトパワーで未然に紛争を避けることができるなら、それに越したことはありません。そこで、スイスが徹底してこだわったのが、ジュネーブ条約の遵守徹底です。この条約は、紛争地において、一切の分け隔てなく、負傷者などを助ける「国際人道法」で、スイスのジュネーブで締結されたことでこの名称がつけれてました。そしてジュネーブ条約を守るため働きをするのが、赤十字国際委員会(ICRC)なのです。

赤十字国際委員会には常時15~25名の委員がいますが、委員にはスイス人しかなることができません。現在のペーター・マウラー総裁は元国連スイス大使で、外交のプロ。また現在の赤十字国際委員会駐日代表も、スイス人のヴィンセント・ニコ氏です(ただし駐日代表についてはスイス人に限りません)。

注目して欲しいのは、赤十字のシンボルは、白地に赤い十字架。一方スイスの国旗は赤地に白い十字架です。どちらも縦と横の長さが同じビザンチンの十字架が基で、赤十字のシンボルと、スイスの国旗は、白と赤の色が違うだけ。いわば陰と陽の関係だとわかるのです。

自国の安全を守るために、武力を最後まで使いたくないスイスは、経済的に多大な犠牲を払い続けながらも、赤十字国際委員会を通して、「世界の人々の命を守る」という国是を死守し、結果として、世界から尊敬と信頼を得ているのです。

日本にも、ジュネーブ条約や赤十字国際委員会に相当するものがありました。それが「気候変動に関する国連の枠組条約」=「京都議定書」でした。過去形で書いたのは、日本政府は不利な枠組みだとして、新たな仕組みを提言しているからです。

しかし京都議定書(Kyoto Protocol)は世界中、どこででも通用する世界に認められた言葉です。人命救助ではスイスの赤十字国際委員会と世界中が認識しているように、「環境では日本」と世界が考える可能性があったのです。

そして環境を推進することが、結果的に日本の安全保障にも繋がったはずなのです。

様々なマイナス要因を甘受しながらも、環境を推し進める国家としての日本。環境政策を通して世界平和に貢献する道。私はまだそこに未来への夢を託したいのです。

桃井 和馬