ユウキのハピネス旅!(仮)プレ企画レポート【文と写真=本田悠喜】

世の大人たちが決算という名の事務処理に追われ、子供たちは春の訪れに不安と期待を膨らませる。そんな3月31日。出会いと別れ。新しい旅立ちの季節。僕はこの日、自転車に乗って旅に出ました。往復50km。ちょっとした取材を兼ねての小旅行です。

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向かったのは、東京都西多摩郡に位置する「日の出町」。青梅市、あきる野市と隣接する緑が豊かな町だ。出発した多摩市からの距離は25kmほど。自動車に気をつけながら、新奥多摩街道を進む。
穏やかな日差しと暖かな春風の中、ペダルを漕ぐ。風が心地良い。タイミングが良かったようで、予報ではこの日から数日間、東京の桜は開花がピークだという。そこかしこの公園では花見が行われていて。うーん、混ざりたい。ビールが飲みたい。っと、いかんいかん、集中せねば……。

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誘惑を振り切り、自転車漕ぐこと2時間半。日の出町に到着。取材に協力してくださった濱田光一さんと落ち合い、さっそく町を案内してもらう。濱田さんは日の出町の環境調査活動を行う「たまあじさいの会」の会員で、日の出町について詳しい。そのため、今回の取材に協力して頂いた。
この取材では日の出町の環境問題について濱田さんに訊ね、ゴミ処分場と水力発電の現場を見せていただく予定。まずはゴミ処分場を訪ねた。

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「日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場」。かつて、多摩地域26市1町から出されたゴミの焼却灰を一手に引き受けた埋め立て地である。当時の様子を濱田さんはこう説明してくれた。
「処分場の建設に反対の人もいれば賛成の人もいた。補助金が出て、住民同士でトラブルも起きた。最後は結局、行政の力押しだったよ」
絶対の「正しさ」は存在しない。それぞれの視点があって考え方がある。その時の状況はバラバラだ。正解はない。けれど、そんな中で答えを出さざるを得ない状況はざらにある。無理やり出した答えはどこかに歪みを生んで、その歪みにみんなが苦しむ。歪みを生んだ者たちは笑うだけ。またどこかで同じような歪みを作っては、ほくそ笑むのだろう。

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奥多摩町の山あいに忽然とその姿を現した小さな公園。そこに「町田式らせん型水車」はあった。
沢を渡り、階段を上る。石垣の上にできたその公園は、何の飾り気もない空間で落ち着いた。梅とか百合の花が咲いていて、のんびり昼寝したら気持ちがいいだろうな、なんて思っていると、そいつは居た。せっせとその羽根を回転させ、規則正しく動きながら。
水車というから観覧車のような形を想像していたが、全く見当はずれだった。羽根と表現したように、その水車には羽根が付いている。螺旋したウォータースライダーとでも形容できようか。水車のイメージから外れたその形状。この形がどんな違いを生むのだろうか。

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濱田さんが説明してくれた。
結論から言えばこの水車、凄い代物であった。長さ4mほどのこの羽根と、羽根を取り囲む筒との隙間がほとんど無いため、流れる水をくまなくキャッチし、その移動エネルギーをほぼ100%吸収。少ない水量でも強力なエネルギーに変換することができるとのこと。
従来の水力発電は水流に落差を利用しエネルギーの変換を行う。そのため落差を作るためのインフラ整備にコストがかかり、小さな川では効果が期待しづらかった。町田式水車は流れる川の力を余すことなく活用できるため、無理に河川をいじくる必要はない。環境に配慮し、かつ効果的な発電が行える。
さらに、シンプルな構造をしているため量産にかかるコストが低い。組み立てが容易で、部品自体は細かに別れるため搬送がしやすい。さらに磨耗による負担が少ない設計のため、耐久性に優れ維持費が節約できる。なんだかいいことづくめじゃないか?
専門的なことは分からないが、機能的で優れたものだということは理解できる。それもそのはず。調べてみると、2012年行われた「節電・発電大賞」で優秀賞の栄冠に輝いている。専門家にも認められた水車なのだ。そんな水車が、人知れず今日も回り続けているのだ。なんだか僕も頑張ろうと思えてくる。
人生で水車に励まされる日が来るとは思わなかった。そんな気持ちで濱田さんに別れを告げ、帰路につく。まだ花見が続いているであろう時間だ。混ざりたい。混ざっちゃおうかな(自転車は軽車両です。お酒を飲んで運転すると違法となります。やめましょう)。邪念が脳内を支配し始めたその時、ペダルがぐんと重くなった。え、なんで? 反抗期か? そんなわけがない。
バッテリーが切れたらしい。そして苦行が始まった。

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重い。
5分前まであんなに軽かったペダルが、進みたくないと駄々をこねるように重い。充電ができそうなお店を探す。
探す。探す。探す。探す…。探す……。探す………。……無い! マクドナルドも、スターバックスも、自由にコンセントを貸してくれるお店が無い! どうしよう! 前輪がどこかに接触して、甲高い音を鳴らしている。キィー、キィー。ウルトラマンのタイマー音みたいで焦る。
渋いツラをしたまま新奥多摩街道を戻る。多摩市まで残り10kmほどになった時、サイクルショップを見つけた。ここだ! すぐに駆け込む。店長らしきお兄さんに事情を説明し、少し充電させてもらう。抜けつつあったタイヤの空気も入れていただく。助かった。メガネにパーマが似合う、感じの良い店員さんだった。ありがとうございます。さあ、もうひと踏ん張り。

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「あ、桃井さんだ」
エネ協の事務所を目指して坂を登っていた僕の横を、彼は車に乗って颯爽と横切っていった。迎えに来てくれたみたいだ。いやあ、それにしても速い。スイスイ登っていく。車って凄いな。エネルギーって凄いな。今日も随分と助けられた。
僕らはあらゆるエネルギーに生活を支えられている。それはもう間違いない。それらが使えないという状況に陥ると非常に困る。
エネルギーが使えなくなった世界を想像してみたが、話が大きすぎて頭がパンクした。調べてみる。なんだか曖昧で物騒なことしか分からない。飢饉で人口が激減するとか。内紛や略奪が絶えなくなるとか。まあ、そんなことは誰にも分からない。そもそも、そんなこと誰も真剣に考えないだろう。自分は大丈夫だと思っている。
とにかく、僕にエネルギーの使えない生活は考えられない。たぶんそれは、多くの人が同じだと思う。全人類エネルギー依存時代だ。
だから、求める。もっともっともっと。際限なく、求める。何かを犠牲にしてでも、求めてしまう。欲は人の本質で、性だ。欲がなかったら、こんなに文明が発達することはなかっただろう。
ただ、ちょっと欲張りかな、いまの僕らは。
先日、「全自動たたみ機」なるものが宣伝されていた。そこに服を放り込んでいたら、機械が服を適切にたたんでくれるらしい。凄い。凄いけれど、いるか? そんなものが。需要があることは予想できるけれど。なんだかなあ、という気分になった。うーん。これもまた、絶対の正しさはない。難しいな。

奥多摩にせよ多摩市にせよ、坂が多い気がする。気がするだけかな。
なんとか帰り着いた。だいたい3時間半ぐらいだろうか。行きより1時間はかかっている。電気アシストの効果、持続時間、アシストを使うべきタイミングなんかを体験できたのは収穫。自転車自体の耐久性も分かってきて、今後改善すべき点がポツポツと出てきた。僕自身も体力づくりが必要だと感じる。頑張ろう。

最後に。
濱田さんを始め、今回の企画に携わって頂いた方々と、応援してくれる方々に感謝を込めて。ありがとうございました。